大判例

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最高裁判所大法廷 昭和36年(オ)1138号 判決 1965年7月14日

上告人

和歌山市教育委員会

右代表者委員長

内藤俊彦

上告人

新宮市教育委員会

右代表者委員長

坪井安男

上告人

御坊市教育委員会

右代表者委員長

木下敬一郎

右三名訴訟代理人弁護士

長野潔

秋山昭八

石原輝

平井二郎

鈴木稔

山田靖彦

梅沢秀次

関根栄郷

泥谷伸彦

水上益雄

斎藤栄一

右三名補助参加人

和歌山県教育委員会

右代表者委員長

松林芳美

右訴訟代理人弁護士

石原豊昭

田辺哲夫

被上告人

田中資郎

ほか八名

右九名訴訟代理人弁護士

浪江源治

山本正司

古川毅

石川元也

橋本敦

中谷鉄也

岡崎赫生

重松蕃

芦田浩志

尾山宏

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人らの請求を棄却する。

訴訟の総費用は、被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人長野潔外一一名並びに上告補助参加代理人石原豊昭外一名の上告理由第一点および第三点について。

論旨は、原判決が本件のごとき特別権力関係に関する訴訟について裁判権を肯認し、また、専従休暇の承認に関する処分を覊束行為と判断したことは、憲法七六条、裁判所法三条、行政事件訴訟特例法一条の解釈適用を誤まり、また、本件専従条例各二条に違背するものである、という。

おもうに、専従休暇の承認に関する処分は、元来、特別権力関係に立つ職員の勤務に関するいわば特別権力関係内部の行為であつて、その承認の拒否も、職員をして従前どおり職務に専念させるにとどまり、職員の地方公務員たる身分を剥奪するものではなく、また、職員が休暇を得て職員団体の業務に専従し得ることは、憲法二八条の保障する勤労者の団結権等に内在しないしはそれから当然に派生する固有の権利と解し得ないことは、まさに、所論のとおりである。しかし、地方公務員法(昭和四〇年法律第七一号による改正前のもの。以下同じ)は、職員は、その職務の遂行にあたり全力を挙げてこれに専念すべきである(三〇条参照)が、「法律又は条例に特別の定めがある場合」に限り、地方公務員たる身分を保有しながら、職員団体の事務、活動に専念することができる(三五条、五二条五項参照)ものとし、また、同法の規定(三五条、五条一項)に基づく本件専従条例は、「任命権者は、職員に対し、その申出により、公務に支障のない限り、その代表者又は役員として、人事委員会に登録された職員団体の業務にもつぱら従事するための休暇を与えることができる(但し、御坊市の場合は、与えるものとする)。」と規定している(各二条)。これは、後段叙説のごとく、地方公務員法が職員でなければ職員団体の構成員または役員となることができないということを前提としており、そのことのために、全勤務時間を通じて職務に専念すべき義務を負う職員としては、当該地方公共団体と効果的な団体交渉を行なうことができず、ひいては職員団体結成の実を失うこととなるので、職員の団結権等を保護するため、特に、右のような法的措置を構じたものというべきである。従つて、かかる法制の下においては、右の各規定は、職員に対し専従休暇の承認申請権を与え、その運用を単に地方公共団体の内部的自律権に委ねることなく、法令による統制に服せしめる趣旨に出たものであり、この限りでは、専従休暇の承認に関する処分に対しては、法的統制の実効性を保障する制度としての裁判所の審査権限が及び得るもの、と解するのが相当である。そしてまた、本件専従休暇の不承認処分は、行政庁の消極的行為ではあるが、法によつて与えられた職員の前記申請権に法的効果を及ぼすものであるから、取消訴訟の対象たる行政処分であり、しかも、前記説示の理由により、行政庁の裁量に法的制約が課せられている処分に該当する、というを妨げない。

ところで、地方公務員法は、職員団体の構成員の資格、範囲につき、同法五二条一項で、「職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し当該地方公共団体の当局と交渉するための団体を結成し、若しくは結成せず、又はこれ加入し、若しくは加入しないことができる」と規定するにとどまり、公共企業体等労働関係法(昭和四〇年法律第六八号による改正前のもの。以下同じ)四条三項や地方公営企業労働関係法(昭和四〇年法律第七〇号による改正前のもの。以下同じ。)五条三項のように、非職員を職員団体の構成員または役員から排除する旨の明文を設けていない。しかしながら、もともと、教育公務員を含む地方公務員(職員)は、労務を提供し賃金を得て生活するものであるから、一般私企業の労働者と同様、憲法二八条の「勤労者」に該当するものであるにもかかわらず、地方公務員法が職員につき労働組合法の適用を排除して(五八条一項参照)、職員の争議行為を全面的に禁止し(三七条参照)、職員団体の団体協約締結能力を否定する(五五条一項但書参照)とともに、右五二条一項のごとき職員団体結成に関する別段の規定を設けたのは、同法が、当局と交渉をしたり専従職員をを置き得る職員団体を人事委員会に登録された団体に限ることとし(五五条一項本文、前示専従条例各二参照)、しかも、登録団体の要件として、当該職員団体が「構成員の範囲及びその資格の得喪に関する規定」等の条項を具備する規約を有するほか、重要事項につき「構成員たるすべての職員が平等に参加する機会を有する直接且つ秘密の投票による全員の多数決」が要求される等所定の資格に欠くるところがなく、殊に、申請書には、「理事、代表者その他の役員並びに法及びこれに基く条例で定めるところにより職員団体の業務にもつぱら従事するための休暇を与えられている者の氏名、住所及び職名」を記載しなければならないと規定していること(五三条および本件登録条例各二条参照)からみて、また、原則として労働組合法の適用のある公共企業体等または地方公営企業(公共企業体等労働関係法三条、地方公営企業労働関係法四条参照)についてすら、前示のごとき非職員排除の規定が設けられていることとの権衡から考えても、非職員が職員団体に加入しまたはその役員となること(いわゆる「職員団体への参加」)を認めない趣旨に出たもの、と解するのが相当である。もつとも、原判決の指摘するごとく、地方公務員法附則一三項ないし一五項によると、従前の官公庁労働組合で「その主たる構成員が職員であるもの」は、一定の期間内に法五三条一項による登録を受ければ、法上の職員団体として存続し得ることとなつている。しかし、法五三条一項は、前叙のごとく、職員団体の登録要件一般を規定したものであつて、もとより従前の職員組合の登録につき別異の要件を定めたものではないことが明らかであり、また、同法附則一六項は、所定の期間内に登録を受けなかつた従前の組合は解散すると規定しているのである。従つて、右附則一三項ないし一五項は、単に従前の官公庁労働組合に対し、法定の資格要件をそなえて登録を受けることを条件として、法上の職員団体となり得る途を開いたに過ぎないものと解すべきであつて、これらの規定をもつて、原判決のごとく、前示登録要件にもかかわらず、非職員を包含する従前の組合であつても、「主たる構成員が職員であるもの」は、所定の期間を超えて法上の職員団体として存続することを容認し、または、法が一般に非職員の職員団体への参加を肯認していると解するがごときは、失当である、というべきである。

そこで、地方公務員法五二条一項(および本件専従条例各二条)を以上のごとく解することと憲法二八条との関係について附言すれば、憲法二八条の保障する勤労者の団結権等は、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とし、みだりに制限することを許さないものであるが、絶対無制限のものではなく、公共の福祉のために制限を受けるのはやむを得ないこと、当裁判所の屡次の判決の示すところである(昭和二八年四月八日大法廷判決、刑集七巻四号七七五頁、昭和二五年一一月一五日大法廷判決、刑集四巻一一号二二五七頁等参照)。そして、右の制限の程度は、勤労者の団結権等を尊重すべき必要と公共の福祉を確保する必要とを比較考量し、両者が適正な均衡を保つことを目的として決定されるべきであるが、このような目的の下に立法がなされる場合において、具体的に制限の程度を決定することは立法府の裁量権に属するものというべく、その制限の程度がいちじるしく右の適正な均衡を破り、明らかに不合理であつて、立法府がその裁量権の範囲を逸脱したと認められるものでないかぎり、その判断は、合憲、適法なものと解するのが相当である。

ところで、地方公務員法が職員の給与、勤務時間その他の勤務条件について、その根本基準を定め(二四条参照)、地方公共団体の人事委員会による給与等の勧告に関する制度を設け(二五条三項、二六条、四七条参照)、さらに、前叙のごとく、職員は団体協約の締結はできないとはいえ、職員団体を通じて勤務条件等につき当局と交渉をすることができるものとし(五五条一項参照)、職員団体の事務の処理のため一定の職員に対して専従休暇を許すようにしていること等によつて、職員の労働基本権を一応保護していることにかんがみ、また、地方公務員は全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し(憲法一五条二項参照)、且つ、職務の遂行にあたつては全力を挙げてこれに専念し、当該地方公共団体の職務にのみ従事しなければならない義務を負つており(地方公務員法三五条参照)、このような責務を有する職員の秩序は、公共の利益のためとくに確保されなければならないということにかんがみれば、立法府が従前の官公庁労働組合の実状等諸般の事情からみて職員団体の自主性または民主性の実体のそこなわれることを懸念し、前叙のごとく、非職員の職員団体への参加を認めないとして、職員の団結権をこの限度において制限したのは、前記の適正な均衡をいちじるしく破り、明らかに不合理であつて、その与えられた裁量権の範囲を逸脱したものは認められない。それ故、地方公務員法五二条一項(および本件専従条例各二条)を前段説示のごとく解することは、憲法二八条違反にするものということはできない。

以上の理由により、原判決の前示判断は正当であつて所論法令の違背はなく、違憲の主張もその前提を欠くに帰し、論旨は、いずれも採用することができない。

同第三点について。

論旨は、本訴請求について訴の利益を認めた原判決には訴の利益に関する法律判断を誤つた違法がある、という。

被上告人らの原審における本訴請求の趣旨は、本件不承認処分の取消にある。そして、記録によれば、被上告人らの申請にかかる専従休暇の期間は、昭和三四年四月一日から昭和三五年三月三一日までの一箇年であり、本件不承認処分も、右期間を対象としてなされたものであつて、被上告人らに対し将来にわたり専従休暇を承認しない趣旨でなされたものではなく、しかも、右期間は、原審に本訴の係属している間に経過したこと、また、本件訴は、昭和三四年四月一六日提起され、その第一審判決は同年九月二六日、原判決は昭和三六年七月一〇日言い渡されたことが明らかであるが、本件訴の利益については、昭和三七年一〇月一日から施行された行政事件訴訟法附則三条本文の規定により、同法を適用してその存否を判断するのが相当であるというべきである(昭和三七年(オ)第五一五号、同四〇年四月二八日法廷大判決参照)。

原判決は、被上告人らが前記申請にかかる専従休暇の全期間にわたりその所属する和歌山県公立学校職員組合の業務に専従した事実を認めたうえで、本件不承認処分が取り消されなければ、被上告人らは、その間職務専念義務に違反したこととなり、将来の昇給、昇格、退職金の算定等にあたり、右期間が、適法な専従休暇期間として、公務に従事した「正期の勤務時間」に算入されないのみならず、前記専従条例によつて保障された「職務に復帰する権利」を喪失する等の不利益な取扱いを受ける虞れがあるから、本件不承認処分が違法であることを確定することにより、被上告人らが将来不利益な取扱いを受けることを防止し、その法律上の地位を安定させる点において、本訴請求についてはなお訴の利益を肯認すべきであるとする。しかしながら、仮りに本件不承認処分が違法のものであり、これにより被上告人らが不当に原判決摘示のごとき不利益をこうむる虞があるとしても、かかる不利益は、将来の発生にかかり、しかもその発生自体不確定であるばかりでなく、そもそも被上告人らが本件不承認処分を無視して本来の職務に専念しなかつたという別個の事実に由来するものであつて、本件不承認処分により当然かつ直接的に招来されるものではないから、本件不承認処分を取り消したからといつてこれにより回復されるものではない。そればかりでなく、本件不承認処分が違法であつたため上告人らがやむなく無承認のまま組合の業務に専従したという事情が、被上告人らに対し将来、或いはなされることあるべき個々の不利益処分の効力を判断するにつき考慮されるべき事項であるとするならば、それは、右不承認処分の取消をまつまでもなく、右の個々の不利益処分の効力を争う訴訟において考慮され得ると解されるから、被上告人らは、この意味においても、本件不承認処分の取消を求める法律上の利益を有するものということはできない。また、他に、本件不承認処分の取消によつて回復すべき法律上の利益を認め得るに足る資料はない。それ故、被上告人らの本訴請求は、右期間の経過により権利保護の利益を喪失したもの、といわなければならない。

されば、論旨は、結局、理由あるに帰し、原判決およびこれと同趣旨に出た第一審判決は、すでにこの点において、破棄または取消を免かれず、被上告人らの本訴請求は、許すべからざるものとしてこれを棄却するほかはない。

よつて、その余の上告理由に対する判断を省略し、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(横田喜三郎 入江俊郎 奥野健一 石坂修一 山田作之助 五鬼上堅磐 横田正俊 草鹿浅之介 長部謹吾 城戸芳彦 石田和外 柏原語六 田中二郎 松田二郎 岩田誠)

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